こんにちは。株式会社K.OFFICEの奥休場です。
動画制作を進める中で、「LOG(ログ)」という言葉を最近はよく耳にするのではないかと思います。
また、スチール撮影ではよく聞くものの、動画の世界ではCMや映画、ドラマなど、ある程度大きな規模感の現場でないとなかなか耳にすることも少ない「RAW(ロウ)」というデータもあります。
ですが、この2つについて、具体的にどんな収録形式でどんな違いがあるかなど、よく分からない方も多いのではないでしょうか。
単にデータ容量だけの違いとして捉えるのではなく、制作する動画に合わせて正しく収録形式を選ぶことが実は重要なポイントです。
LOGとRAWを理解した上で撮影を進めていけば、ワンランク上の動画制作につながっていきますので、今回の記事で理解を深めておきましょう。
今回の記事では、
・LOGデータとRAWデータの違い
・LOGのメリット・デメリット
・RAWのメリット・デメリット
・動画制作でLOGとRAWを選ぶ基準
について詳しく解説していきます。
目次
1.LOGデータとは
LOGデータとは、カメラがセンサーで取り込んだ情報をベースに色調・彩度・諧調が処理され、ある程度データ容量が圧縮された収録形式を指します。
RAWデータや従来の撮影データの中間にあたるような存在と言えばイメージしやすいのではないでしょうか。
わかりやすくお肉で例えると
・RAWデータ
センサーが取り込んだ情報を、そのまま書き出したデータ。(お肉で言うと生肉)
何も処理されていない為、好きなように調理(編集)できる。
※ただし調理しないと食べることができない
・LOGデータ
センターが取り込んだ情報を元にカメラ内部で必要最低限の処理がされ、なるべく情報量を残したデータ。(お肉で言うと下ごしらえをした状態)
下ごしらえがされたことで扱いやすく(=容量が小さく)なるが、調理の途中段階の為、調理の幅がはまだ残っている。
※ただしこれも、下ごしらえ段階なので、調理しないと食べられない
・従来のデータ
センサーが取り込んだ情報を元にカメラ内部で設定に合わせた処理がされ、映像が仕上がった状態のデータ(お肉で言うと焼き上がってソースもかかったステーキ)
完全に料理が出来上がっているので、このまま食べることができる。ただし後から(編集段階で)できることは少ない。
という感じです。
LOGは編集時にカラーコレクションやカラーグレーディングすることを前提としてとしているため、LOGデータで撮影した素材自体は、全体的にくすんでいる・ぼんやりしている映像になっています。
(なぜそうなるか、という部分は今回は割愛します)
具体的なLOGデータの特徴は、
・RAWデータよりも容量が小さいが、通常の撮影データよりは容量が大きい
・高いダイナミックレンジを持ち・中間色の諧調を減らす分、黒つぶれ白飛びしやすい領域に多く諧調をあてるため黒つぶれ・白飛びを抑えやすい
・RAWデータよりも調整できる幅は狭く、撮影後に色温度やISOを変更することはできない
・撮影現場で調整後の色味が確認できるよう、LUT対応モニターがあることが望ましい
・形式によっては明暗部においてノイズが目立ちやすくなる為、ポストでの調整が必要になることもある
などがあります。
特徴を踏まえたメリット・デメリットは後ほど詳しく解説していきます。
2.RAWデータとは
RAWデータとは、撮影された映像に処理を施すことなく、出力される「生データ」をそのまま記録された収録形式を指します。
全ての情報が保存され、データ内に情報量が多く存在することで、ポスプロ時の自由度が高い形式です。
イメージしている映像の世界観に仕上げやすい特徴があり、映像の質にトコトンこだわれる形式といえます。
LOGデータ同様、カラーコレクションやカラーグレーディングが前提であり、LOGでは収録時にカメラ内部で処理されるノイズ処理やレンズ補正なども編集時に行うことになります。
具体的なRAWデータの特徴としては、
・カメラのセンサーから出力される未加工の「生データ」をそのまま保存できる ※厳密に言うと、12bit RAWはカメラ内で多少の圧縮はされています
・光・色・諧調の情報を全て記録できる
・ポストプロダクションの段階で、素材調整(現像処理や画像補正)の自由度が非常に高く、幅広い表現が可能
・データ容量はLOGデータよりも大きい(容量はRAWの形式でまた異なります)
・転送速度の高い規格の大容量記録メディアが必要
・RAWデータを扱えるカメラは高価なモデルが多い
などがあります。
LOGデータ同様に、RAWのメリット・デメリットについては順番に解説していきます。
3.LOGデータのメリット
まずはLOGデータについて、理解しておくべき3つのメリットを解説していきます。
3-1.RAWと比較してデータ容量が小さく扱いやすい
LOGデータはRAWデータを圧縮し、データ容量を小さくしているため、編集時に扱いやすい点がメリットです。
RAWデータになると、情報量が最大16bitまで収録が可能で非常に大きなデータ容量になります。
一方、LOG撮影では8〜10bitの情報量になるため、データ容量を抑えることができる形式です。
したがって、編集時にかかる負荷が少なくなる・データを記録するための大容量メディアを用意する必要がないといったメリットがあります。
(ただし、あくまでRAWと比較しての話になります。LOGでも10bitになると、それなりのデータ容量にはなってきます)
実際、RAWはデータが大きい為、撮影時や編集時にコストがかかり、手軽に動画制作をしたいシチューションではLOGデータが活用しやすいといえるでしょう。
3-2.ダイナミックレンジを広く残せる
LOGデータは、「ダイナミックレンジ=暗い部分から明るい部分までの描写幅」をデータとして広く残すことができます。
また、ダイナミックレンジを広く残せるということは、黒から白までの濃淡をより多く表現できることになります。
よってLOGデータは、黒つぶれ・白飛びしにくい収録形式といえるでしょう。
尚、弊社の動画制作ではSONYのFX3と呼ばれるシネマカメラを使用します。
ダイナミックレンジの広さを表す指標のstop数は、「15+ストップ」のワイドラチチュードを達成している高性能カメラで撮影を行うため、ハイライト部からシャドー部までよりなめらかな諧調を再現できるカメラで制動画作が可能です。
3-3.10bitで撮影できる機材が増えてきたことで、グレーディングの幅が広くなった
これまで8bitで撮影する機材が一般的でしたが、近年の技術進化によって10bitで撮影できる機材が登場しています。
したがって、10bit撮影+LOGデータの記録では、従来よりグレーディングの幅が広くなっているのもメリットです。
そもそも8bitや10bitとは、動画の記録設定で見かける表記で、ビット深度を指しています。
このビット深度とは記録する際の色の諧調を表し、8bitよりも10bitのほうが大幅に綺麗なグラデーション表示が可能です。
bit数と表現できる色数を数値で表すと、
・4:2:0 8bit 約1677万色
・4:2:2 10bit 約10億7374万色
となりますので、色数は大きく異なることが分かります。
bit数による違いのイメージとしては、8bitで撮影した素材をグレーディングした際、ある部分が影と混ざってしまいディティールの崩れが見られたとしても、10bitで撮影した素材であれば、影と混ざることなく対象物がハッキリと浮かび上がり、本来の配色もしっかりと残っているようなイメージとなります。
つまり、10bitで撮影した素材であれば、グレーディング次第でイメージに近い映像を実現できます。
4.LOGデータのデメリット
続いて、LOGデータのデメリットを確認していきます。
4-1.一部の情報は削られて圧縮される
データ容量が軽くなる反面、さほど重要ではない一部の情報が削られて圧縮されます。
余計な情報が削ぎ落とされるのはLOGデータのメリットではあるものの、「映像に最大限こだわりたい」となった状況では、編集できる範囲が限定されしまう点が難点です。
ここに関しては、制作する動画の種類や制作者が求める映像のレベルに合わせてLOGデータなのか、RAWデータなのか選択する必要があるでしょう。
4-2.撮影時に適正露光等の設定が必要
LOGデータは撮影後の編集段階で調整ができるとはいえ、明暗や色調など調整幅は狭い形です。
また、色温度の変更もできない形式になっているため、撮影時には適正露光等の設定が必要です。
適正値で設定するには、撮影者の知識や経験値が必要であり、誰でもLOG撮影をこなせるわけではない点は覚えておく必要があるでしょう。
4-3.ポストプロダクションでのカラーコレクション作業が必ず必要になる
LOGデータは、撮影後の編集時に色を整えいていく(カラーコレクション作業)が必須になります。
となれば、どうしても撮影後に手間と時間はかかりますので、「映像を短期間で完成させたい」などスケジュールに余裕がない状況にLOGは適さない収録形式です。
ただし、この点はRAWデータも同様であり、手間を考えるならRAWデータのほうがより労力を費やす形になる点は覚えておきましょう。
また、カラーコレクションは専門知識が必要であり、誰でも行える作業ではないというのもデメリットです。
5.RAWデータのメリット
次はRAWデータについて、メリットから見ていきましょう。
5-1.カメラ内で画像処理する前の「生」データを残せる
カメラで撮影された素材は、カメラ内で自動的に画像処理されてしまいます。
しかしRAW撮影であれば、目で見えている風景と変わらない状態の映像を残すことができます。
つまり、RAWデータは撮影時の情報を全て保存できる(=生データ)というのが最大の特徴です。
RAWはプロのスチールカメラマンでは一般的なデータであり、映像にこだわりたい制作者であれば、容量が重いデータでもRAWを選択するケースが多いといえます。
それだけ映像の完成度に違いがでるということになるのですが、これはそれぞれの保存できる情報量を数値で見ておくと差がハッキリと理解できます。
具体的には、LOG撮影であれば大体8〜10bit(最近はミラーレスカメラで動画を10bitで撮れるカメラが増えた)、RAW撮影であれば12bit(AppleのPro Res RAWの場合)での撮影となりますが、保存される色数には大きな差が出る形です。
8bit | 4:2:0 | 約1677万色 |
10bit | 4:2:2 | 約10億7374万色 |
12bit | 4:4:4 | 約687億1000万色 |
RAW(12bit)はこれだけ多くの色数が保存されるため、それだけ編集の幅が広くなります。
5-2.色温度やISOなどを編集時に変更できるなど、編集の自由度が高い
RAWデータは色温度やISOなど他収録形式では撮影後に編集できない領域まで加工が可能です。
RAWデータで撮影すれば、明るさ・色合いなどのあらゆるパラメーターが記録されているので、撮影した映像をより正確に調整ができるため、映像の品質に大きな差が出る点は魅力でしょう。
調整できる領域の具体例としては、
・露出(明るさ)
・ホワイトバランス
・色被り補正
・彩度、コントラスト
・ISO(ノイズ調整)
となります。
また、撮影時の細かい色調整をする必要がなくなるため、撮影現場の余計な労力を省くことができます。
結果、編集に時間を費やすことで動画の品質をより高められるようになる点もメリットです。
一応、LOGとRAWでどれだけ違いが生まれるかについて、同時収録した以下の画像で比較してみてください。
こちらの画像は、ポスプロで同じだけグレーディングした素材です。
強めにグレーディングしていますが、ハイライト部分やシャドー部分の陰影に差が出ているのが分かると思います。
RAWで撮影した素材のほうが世界観に奥行きがあり、本来の雰囲気がより表現できているはずです。
6.RAWデータのデメリット
最後にRAWデータのデメリットも確認しましょう。
6-1.データ容量が非常に大きい
RAWデータ最大のデメリットは、データ容量が非常に大きくなる点です。
したがって、大容量記録メディアも必要にあり、大量のデータを保存できるだけのストレージ容量や高速なデータストレージ、読み取り速度の早いカメラも必須となります。
重いデータ容量に対応できる環境を整備しておかなければ、手に負えないデータ形式になってしまうので、専門的に動画制作を行なっている業者等でしか取り扱えないというのがデメリットでしょう。
6-2.ポストプロダクション(編集作業)で高度な画像処理が必要になる
編集の自由度が高い分、高度な画像処理が必要になります。
したがって、制作者には専門の知識が必要ですし、編集に大きな手間がかかる点はデメリットです。
補足ではありますが、LOGデータもある程度の高度な画像処理が必要で、カメラ内で処理されているデノイズ(ノイズリダクション)や手ブレ補正、色収差などの編集作業は必須です。
6-3.編集する機器に高いスペックを求められる
RAWデータはデータ容量が重いこともあり、編集を行う機器のスペックが伴っていないとスムーズな動作が行えず、ストレス度が高い中での作業になります。
さらに、細かい調整を正確に行なっていく必要もあるため、鮮明に映像を表示する高解像ディスプレイなどの機器も必要です。
当然、スペックが高い機器はその分高額商品になりますので、導入コストが大幅にかかる点も理解しておく必要があります。
7.動画制作ではLOGとRAWどちらを選ぶべきか
ここまでLOGデータとRAWデータの特徴を解説してきました。
それぞれメリット・デメリットがあるため、必ずしも「〇〇が優れている」とは言えず、制作する動画の内容や映像に求める品質に合わせて選ぶのが最適解といえます。
最後に、LOGとRAWどちらの形式を選ぶきか具体的に整理しておきます。
7-1.コストを抑えてこだわった映像を作りたいならLOG
LOGはデータ容量が小さく、編集環境もRAWよりはスペックを必要としない為、コストを抑えつつ「明暗や色調だけ調整して綺麗に仕上げられたら良い」「ある程度の映像品質を担保できたら良い」といったプロジェクトの時に選ぶと良いでしょう。
RAWまでとはいきませんが、ある程度のカラーグレーディングが可能なので、一定レベル以上のこだわった映像制作が可能です。
(※しつこいようですが、あくまでもRAWと比較してですので、10bitならそこまで強く拘らない限りは十分な素材になります)
ただし、LOGは撮影時に適正な露出設定等が欠かせない収録形式になるため、撮影現場での手間が増える点は把握しておく必要があります。
7-2.映像の世界観にトコトンこだわるならRAW
RAWはイメージセンサーから読出した情報を圧縮せず全て保存しているため、撮影後にイメージ通りの映像を作りあげることができます。
したがって、「映像の世界観にトコトンこだわりたい」「好きな〇〇(映画やドラマ)のような映像に仕上げたい」といったプロジェクトの時に選ぶべきでしょう。
具体的には、
・映画
・ドラマ
・CM
・MV
といったジャンルである程度の予算をかけて制作(最低でも2、300万円〜程度)するのであれば、RAWで撮影するのをおすすめします。
8.まとめ
いかがでしたでしょうか。
RAWとLOGについては、プロカメラマンや動画制作会社であれば熟知している領域ですが、一般的にはなかなか分かりにくい部分になってくるかと思います。
まずは今回の記事を通して、同じシーンの撮影でもLOGで撮影するのか・RAWで撮影するのかによって工程だけでなく、仕上がりにも大きな違いが出てくる点だけでも理解しておいてください。
また、これから動画制作を考えている方で制作会社を選ぶ際にも、こういった専門知識を持ち合わせ、目的や内容に合った制作方法を提案してくれる相手を選ぶようにすると、適正なコストでワンランク上の動画を作れるはずです。
もし、「動画制作をどう進めれば良いかわからない」「品質の高い専門業者に依頼したい」等であれば、株式会社K.OFFICEに一度ご相談ください。
弊社ではシネマカメラを使って今回取り上げたRAW収録を行って撮影する「the Cinematic(ザ・シネマティック)」という動画制作サービスを行っております。
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